対談/vol.20

しょくスポ対談

vol.20 籾山 朋輝さん

とてもアンテナの高い籾山さんと初めてお逢いしたのは1年前。関東経済産業局経済産業省の委員を一緒に勤めさせて頂いたのがきっかけです。お逢いする度に幅広い知識とフランクな考えに刺激を受けています。
いくつも肩書きをお持ちの籾山さんですが、今日は社団法人新日本スーパーマーケット協会にお伺いし、
籾山さんのご経歴、スーパーマーケットの裏側についてお伺いしてきました。ぜひご覧ください。

  籾山 朋輝(もみやま ともき)


  1972年生まれ。
  法政大学社会学部卒業後、ダイエーに入社 
  1998年より現社団法人新日本スーパ-マーケット協会に
  勤務。


  ☆新日本スーパーマーケット協会
  ※プロフィールは対談公開時(201110月4日)の
  ものとなります 

スーパーの鮮魚コーナー担当からの転身

― 籾山さんは現在どのようなお仕事をされているのですか?
私はスーパーマーケットの経営者・従業員の方が知りたい最新の情報のセミナーや展示会・商談会を
全国各地で行ったり、チェッカー(レジ係り)の検定業務の運営や構築をしています。多岐に渡った仕事ですが、
一言で言えば“情報の発信”を行っているんです。 
― もっと詳しくお伺いしたいのですが、まずは「新日本スーパーマーケット協会」について知らない方もいらっしゃると思いますので、どのような活動をされているのか教えていただけますか?
はい、今は当たり前になっている買い物カゴに商品を入れてレジで精算する方法ですが、実は日本で最初に導入されたのは約60年(1953年)も前の事なんです。その効率的な販売方法である “セルフサービス方法”を日本のスーパーマーケットに普及させようと、セミナーを開いたり人材の育成を行い、5年後には「日本セルフ・サービス協会」を発足させました。
以来、時代の要請と消費者のニーズに応えつつ、2010年9月、団体名を「社団法人新日本スーパーマーケット協会」に変更しました。現在、加盟会員企業は、総合スーパーマーケットチェーンや食品を主体とするスーパーマーケットを含め、約412社、約7,500店です。他に機器・食品メーカーなどの賛助会員も約687社加盟しています。この会員の方々に向けて情報の発信を行っている団体です。
わが国小売業の近代化・合理化のため、健全なスーパーマーケット経営の研究・指導機関として、各種の充実した活動を展開しています。毎年春には「スーパーマーケット・トレードショー」があり、これは今では活動の中心的なもので、小売業に対するビジネスチャンスの提供に繋がっています。
今も約60年前もお客様に最新の情報をお知らせするという基本の活動の内容はかわっていません。
スーパーマーケットに必要な情報を集め、お客様に進化していただけるようわかりやすい情報として
お伝えしています。


― なるほど、それで多岐に渡るお仕事をされているんですね。


そうですね、他にもスーパーマーケット・流通業界の統計や現状を国にお伝えしています。
業界では一番大きな団体なので他の2団体と一緒に、我々が中心になって活動しています。国から意見を求められる団体になった事は、とても大きな意味があります。
例えば、国の情報をいち早く知ることができたり、流通業界の求める法律の策定時に、現状を提示しながら提案などもさせていただけますからね。最新の情報を手に入れる事ができるのは、会員の方にもメリットになるのです。
今後も力を入れていこと思っている活動です。


― 活動の内容が魅力的なので加盟者の方も増えていってるんですね。
そうですね。会員の方にとって協会に加盟するって、すぐにメリットがあるわけではないんですよね。
でも有事の時に備えて、保険として入っておきたいというニーズがあります。
法律が変わったり、今回の震災の混乱などがあると、「他のスーパーはどうしているのか、この新しい法律についてはどのように対処すればいいのか」という疑問が出てきます。協会には一番最初に情報が入ってきますので、
その時の問い合わせ先としての役割があります。
今回の震災の時、被災地の情報をこまめにHP上で情報発信していたんです。
この活動はいろんな所からお褒めの言葉を頂きましたね。
― すばらしいですね、協会の活動がよくわかりました。
  次は籾山さんのお仕事について、もう少し詳しくお話していただけますか?
そうですね、6年くらい前に私が立ち上げんですが、「食品表示管理士検定」という食品の表示の検定制度を作らせていただいたりもしています。またすでにある検定資格の運営もしています。
― 検定を作ったんですか!?すごいですね。
ありがとうございます。
先ほどお話したスーパーマーケットトレードショーでは、営業の企画を考えたりブースの販売などを行っています。
首都圏で行うだけではなく、地方の自治体や金融業界と連携して地方で展示会を行うときもあります。
そこではバイヤーをコーディネートして紹介したり、地域のメーカーに向けて流通業界のトレンドの紹介をさせて
もらったり、流通業界全体の情報の橋渡しになる仕事をしています。
― 本当に多岐にわたるお仕事をこなされているのですね、ところで、最初からこのようなお仕事をされていたのですか?
いいえ、大学卒業後すぐにダイエーで鮮魚担当として働いていたんですよ!
― そうだったんですか!じゃあ魚をおろすのも得意ですね。
ええ、今でもお電話いただければさばきますよ(笑)
鮮魚にいた頃はベテランのパートさんに怒られながら、現場での経験をたくさん積みましたね。
先ほどお話した企画を考える際、当時の経験が今に繋がっていると思います。
どの業界でもあると思うのですが、現場を知らない協会や代理店の企画は机上の空論になってしまうことがあるんです。私は現場の大変さを身をもって知っているからこそ、現場の人が本当に必要としている事を企画に落とし込む事ができます。
― なるほど。具体的に受け入れられる企画と受け入れられない企画にはどのような差があるのでしょう。
そうですね、2、3歩行き過ぎている企画は通りません。「自分たちのお店でもやればできるかもしれない」という半歩先の企画が通りますね。正直な話でいうと、その企画が“儲かるのか”につきます。
後はロジックの説明でも差がでます。それをやったらどう儲かるのかをわかるように提示するんです。
今、“節電”というキーワードがありますが、現場では「節電を行って儲かるのか?」と第一に考えてしまうと
思います。そのときに、我々は「今、お客さんの目線が変わっています“企業の価値”という考えをしてください。
最終的には節電に協力する事が利益につながります。」とロジックを元に企画を説明していきます。ビジネスですからこの点も大切にしていますね。
― ダイエーの現場で流した汗は確実に今のお仕事に活きてるのですね。

お客さんに喜んでもらえることが仕事のモチベーション

― 今までの経験で一番辛かったこと・嬉しかった事を教えていただけますか?
辛かったことは、やっぱり早起きですね!
鮮魚はスーパーマーケットの中でも始業が早いんですよ。私はすごい夜型の人間でしたので、5時に起きて6時に
店に入るのが辛くて(笑)。冬は水場なので本当に寒いんです。
今の仕事も大変なことはたくさんありますが、頭をフル回転させている感じ。当時は肉体をフル回転させていました。私は肉体的な辛さのほうが辛いんですよ(笑)。あの大変さに比べたらなぁ、と今でも思いだしますよ。
― 辛かった思い出がよく伝わりました(笑)。ところで、鮮魚売り場から野菜売り場など異動も
あるのですか?
鮮魚は基本的には異動はありませんね。水産学部出身で希望して入ってくる方も多いですしね。優秀な人は
担当部署から、バイヤーになり仕入れを担当したり商品企画をしたりと昇進していきます。
― なるほど、それでは嬉しかったことは?
「お客さんが喜んでくれる」ということが常に嬉しい事ですね。“お客さん”といっても対象は様々なんですけど、現場で働いている時は買いに来てくれるお客さんですし、今ではバイヤーさんや経営者さんも自分のお客さんです。企画が役に立って喜んでもらえるのは本当に嬉しいです。
これが私の仕事をする上でのモチベーションになっています。

― すばらしいですね。お客様に喜んでもらうために努力されてることはありますか?
土日も店舗見学をしていますよ。
家族でショッピングセンターのはしごや、新しくできた店は必ず見に行っています。見学をして自分なりの評価基準に合わせ、得た情報をどのように提供したらスーパーマーケットのみなさんが喜ぶ企画になるのかを考えています。それと、特に異業種にどういう動きがでてきているのかを、常にアンテナをはっています。
ITの活用方法など流通業界に活かすにはどうすればいいのかを考えるのが、協会の使命だと思っています
からね。      



     
 
― 同業者での動きもすごく大切ですけれど、異業者の方の常識が自分達にとって新しい発見につながることって多くありますよね。
そうなんです。特に現場の方は仕事がルーティーンになりやすいですから。そのためにも現場の事をよく知っているけれど、少し遠い存在の協会が変化を起こすきっかけをつくることが重要じゃないかと思っているんです。
― すばらしい考えですね。

毎日体を動かすことで頭が冴える

― ではご自身の健康作りについて、食と運動で心がけている事は何かございますか?
実は、食生活は褒められたものではないですね。
― そうなんですか!?朝食は召し上がっていますか?
食べないんです。すみません…。
自分の戒めのためにも、食べてない事はしっかり掲載してください(笑)。不規則な生活なので、1日2食とか
忙しいと1食の時もあります。 それでも心がけているのは、腹八分目で適量を食べるようにしていますね。
あとは野菜を必ずとるようにしています。      
― 不規則になってしまっても、食事の内容をしっかり考えてらっしゃるんですね。
でも5年後、10年後が心配ですので気をつけてくださいね。運動はなさっていますか?
運動はしていますよ!ほぼ毎日30分~1時間ほどエアロバイクで体を動かしています。

― 毎日されているんですね、すばらしい!
やりだすと癖になるんですよ、体を動かさないで1日が始まると、頭が冴えないんです。普通は朝食を食べると頭が冴えるんでしょうけど…。私はスポーツで食事の埋め合わせして“食と運動のバランス”をとっています。

頼まれた仕事は頼まれた以上の内容で返す

― 多岐にわたるお仕事をされている籾山さんが仕事を極める上で大切にしている事はなんですか?
この人に評価されたいと思って仕事をする事はないですね。私は「神が見ている」って言葉が好きなんです。
基本的には誰からも評価されなくてよいけれど、神が見ているので手は抜いてはいけないなと。この考えでやっていると怒られても気にしないですみますね。また、きっちりとやっていれば評価につながると思います。
― そうですね、人に怒られることよりも、自分が100%の力を注がなかった時のほうが後悔しますよね。
私の力を期待して仕事をまかせてもらった以上は、相応のパフォーマンスで仕事をするように努めています。期待以上の事をしようと精一杯ですが、私はそれでも他人様の60%ぐらいしか達成できていないと思います。
そういう意味では本当に、頼まれたことに対して思っている以上の内容を返させていただくようにしています。それが仕事を極める上で大切にしている事ですね。

―籾山さんとお仕事をさせて頂いた中でそのお考えがよく伝わってきました。

お客さんが喜ぶようなお店を持ちたい

― 最後に今後の夢・目標を教えていただけますか?
夢ですか!秘密です(笑)。
私が流通業界を志した理由は、お客さんのためになるような店を自分で持ちたいと思っていたからです。そのために、当時日本一のダイエーに入社して勉強しました。協会で仕事をするようになってからは、
少し夢が変わり、お客さんが喜ぶようなお店が日本各地に出来る
お手伝いをしたいと思うようになりました。
― なるほど。籾山さんは意識の高い方なのでご自分のモチベーションをあげるのは問題ないと思うのですが、例えば日々の変化を面倒だなと思っている方のモチベーションをあげるにはどうすればよいと考えていらっしゃいますか? 
それは、間違いなく権限委譲+給与でしょうね。
業績を徹底的に給与に連動をしてあげる。この2つをしっかり行っている所は元気な企業ですよ。これは大企業に関わらず、自営で行っている
八百屋さんでも大丈夫。
むしろ小さい企業のほうが、1人で営業、経理、販売など様々な事をしなければいけないのでスキルが積めます。
全国シェアで大手のスーパーマーケットがほとんどと思われがちです
が、1200社あるうちの20%程度なんです。残り80%は地元の小売業
です。モチベーションの高い、元気な地元の小売業が大逆転する時が
来るかもしれませんね。

▲「お客さんが喜ぶようなお店を
日本各地に作りたい」と語る籾山氏

お客さんの意識を変えていただくきっかけを我々が作る

― 元気な地元といえば、籾山さんは地方に行かれることも多いんですよね? 
そうですね、地方にもよく行きます。
― 私も仕事柄全国各地へ伺いますが、地方に行くと元気な方々や美味しい特産品にたくさん
出会えますよね。
そうですね。美味しいものに出会うと、どのように普及させようかと思ってしまいます。
― いいものだな!と思う地元の特産品でも少数の企業しか作っていなくて、この企業がなくなってしまったらこの特産品もなくなってしまうのでは…と思う商品がたくさんあります。
その商品や食材をつくり続けていくためには地域で盛り上げていくことが本当に大切ですよね。
地方は雇用が減少していますので、いずれたたんでしまうというメーカーさんが多いんですよ。
私は良い商品を流通にのせ全国に広げたいと思うのですが、そのものの良さが伝わらなくなってしまうのであれば、地域内の流通に留めて置く方がよいのかなとも考えています。
そこがジレンマでもあるんですけど…。
首都圏で販路が拡大したほうが地元のメーカ-が潤って地元の雇用が活性しますから。
スーパーは“大きいところは安い”“価格競争をすると業績が伸びる”という一面があります。難しい問題ですが、
おっしゃるとおりこれに取り組まないと中小のメーカーがどんどん減っていって地方の特産品を作る会社がなくなってしまうことに繋がってしまいます。
「この商品には値段なりの価値があるのです」と、きちんとお伝えして行く社会的な役割も必要だと感じます。
― それはぜひ行っていただきたいです!商品が高くても、価値がわかる人に届けばいいと思います。そうすれば消費者の目が育つと思うんです。スーパーでも「あのスーパーに行かないと買えない」という商品があってもいいのではないでしょうか。
そうですね、それこそ国に働きかけて啓蒙活動をしなければいけないですね。そしてお客さんの意識を変えていただくきっかけを我々が作る。スーパーはお客さんと一番近い関係ですから、力を入れて行きたいですね。
― スーパー一社では出来ない活動でも、協会だからこそできる事もありますよね。
よろしくお願いします。今後の籾山さんのさらなるご活躍を期待しています。
本日はありがとうございました。



編集後記

また一緒にお仕事できたらいいですね。食にまつわる情報は日進月歩しているので、時々情報交換していただけいると幸いです。
その時はぜひ、おいしいお酒と新鮮な野菜、籾山さんがさばいた魚を食べながら…(笑)。
楽しみにしています。    
                                                 ☆こばた てるみ☆
 
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