対談/vol.14

しょくスポ対談

vol.14 上田 昇 さん

今回のゲストは元ライダーで、現在は「TEAM NOBBY」での若手ライダー育成などを行っている、上田昇さんです。
現役時代は世界ランキング2位を2回もマークされたことがある上田さんが、なぜ今、ライダーの育成に力を注いでいるのか、また「オートバイの魅力」をたっぷりと語ってくださりました。
「オートバイは詳しくないから・・・」という方でも、きっと読まれた後はその魅力や良さが感じられるはずです。
どうぞご覧ください!

上田 昇(上田 昇)


TEAM NOBBY 代表
1967年愛知県生まれ。21歳の時にオートバイレースを開始。1991~2002年までの12シーズン、ロードレース世界選手権(WGP)で走る。最高成績は世界ランキング2位(2回マーク)。
現在は若手ライダー育成の他、アドバイザーやテレビ解説等を行う。

<WGPにおける通算成績(全160戦)>
ポールポジション:19回
表彰台:39回
優勝:13回(歴代12位)
総獲得ポイント:1412P(GP125クラス歴代1位)

TEAM NOBBY HP

※プロフィールは対談公開時(20102月8日)の
  ものとなります。

才能のあるライダーのために

-まず、上田さんの現在の活動内容を教えてください。
メインは『TEAM NOBBY』に所属している子ども達への指導です。現在は11歳から18歳の8名が在籍しています。
-その他にはどのような活動をされていますか?
選手の育成としては、鈴鹿サーキットのレーシングスクールの専任講師もやっています。
その他に全日本選手権ロードレースのオフィシャル番組解説や、日本TVの「G+(ジータス)」でのMotoGP解説。あとは、もともと僕がレースをやっていた時にお世話になっていたスポンサーさんたちのレースに関することや、プロモーション活動といったアドバイザー活動ですね。
-育成、解説、アドバイザーの3本柱ですね。
  上田さんはこれまで世界で数多くご躍されてきていると思いますが、そのご経歴を教えていただけますか?

▲オートバイの部品がたくさん
私がバイクを始めるきっかけとなったのは高校生の時。同級生が鈴鹿のバイクレースを観に行き、「すごく良かった!」と興奮していたので、次の年に仲間で集まって鈴鹿へレースを観に行ったんです。そこで目の前を物凄いスピードで走るバイクに魅せられました。
ただ、高校生ではバイクに乗れなかったため、自転車を使ってバイクさながらの練習をやっていました。その頃はよくズボンの膝に穴が開いてました(笑)。
そして21歳の時にレースを始めました。1991~2002年までの12シーズン、ロードレース世界選手権(WGP)で走っていて、最高成績は世界ランキング2位を2回マークしました。
-世界ランキング2位なんてすばらしいですね!私はあまりオートバイには詳しい方ではないですが、とてもすごいことだと思います!
まあまあすごいことですね(笑)
-まあまあどころではないですよ!
  では、『TEAM NOBBY』を立ち上げることになった経緯を教えてください。
直接のきっかけは、鈴鹿レーシングスクールジュニアの講師を担当していたとき、そこを卒業していったライダーを受け入れるチームがなかったのです。
若くて将来性があり、そして才能のあるライダー達が走りたくても走る環境がないということは、私にとって許し難い現実でした。才能のあるライダーを強くして世界で戦わせたい、その思いから2007年に『TEAM NOBBY』を設立しました。ありがたいことに、多くの方の応援もあり、レーシングチームとして活動させていただいております。
-周囲のサポートがあってこそなんですね。

自分と戦う

-上田さんがレースに出場していた時や、現在の活動の中で、嬉しかったことや印象に残っていることはありますか?
自分が現役の頃の嬉しかったことや印象に残っていることは、山ほどありすぎて絞り込むのは難しいですね(笑)。レースに勝った時はもちろんですが、自分の思い描いた走りができた時は、それは嬉しいものです。
育成をするようになってからは、子供達が少しでもレベルが上がると嬉しくなってしまいます。子ども達は“のびしろ”だらけで、毎日進歩しています。ですから練習走行に行く度に何かしら嬉しいことが出てきます。
-それは嬉しいですね。
 では、オートバイやレースの魅力ってどのようなところにありますか?
そうですね、オートバイの魅力は肌で風や自然を感じられることだと思います。季節の変化を体全体で感じられると思いますよ。
レースの魅力は『自分と戦える』ということだと思います。
-『自分と戦える』とは?
スポーツは何でもそうですが、『今の自分と戦っている』というのが一番大事だと思うんです。もちろんスポーツって競争なので必ずライバルや競争相手がいますけど、最終的には自分自身との戦いなんです。なので自分と戦って、今の自分を超えていく自分に喜びを感じる。それをオートバイのレースでも感じられます。
-そうですね、何事も最終的には自分自身との戦いだと私も思います。

スピード350キロの世界

レース用のオートバイは走ることに特化した、馬でいうと『サラブレット』なんです。サラブレットのバイクを走らせると、皆さんが想像できないようなスピードに達するんです。
-どのくらいのスピードなのですか?想像がつきません。
例えば、今世界グランプリのトップカテゴリーでMotoGPクラスというのがあるんですが、トップスピードがなんと約350キロです。これは鈴鹿サーキットで4輪の最高峰の1のトップスピードよりも速いです。
-そうなんですか!?そんなに速いなんて知りませんでした。ちなみに1はどのくらいのスピードなのですか?

▲自分でバイクを整備する選手
鈴鹿のストレートで320キロくらいです。トップスピードに関してはMotoGPのほうが速いと思います。その理由は、オートバイというのは非常に軽量でハイパワーなエンジンを積んでいるからなのです。空気の抵抗も受けにくいですし。ただ、2輪ということで、コーナリングフォースに関しては弱いです。ですので「コーナーをいかに攻めるか」がポイントになります。自分の思い描いたような走りができたときは楽しいですよ!
-レースは、どのような形で進められるのですか?
私がやっていた世界グランプリレースは125ccクラスが100キロ、250ccクラスが105キロ、MotoGPクラスが110キロの距離を走り、速さを競います。これがいわゆるオートバイの『スプリントレース』といわれるものです。それとは別に、時間で決められているレースがあって、聞いたことがあるかもしれませんが、『鈴鹿8時間耐久レース』といった『耐久レース』に用いられるものです。例えばその鈴鹿だったら、8時間でより多くの周回をした人が勝ちになります。
-そのような耐久レースにも出ることはあるんですか?
私は過去に1回だけ鈴鹿の8時間耐久レースに出場したことがあります。
指導している子ども達が出ているのは、日本一を争う全日本ロードレースや、『レッドブルルーキーズカップ』という世界グランプリと併催で行われている試合(これはジュニアライダー(13~17歳の選手)のみで争われる)です。

世界大会に出場するために

-世界大会へ出場するには、どのような方法があるのですか?例えば、全日本ロードレースで優勝すると世界で戦えるんですか?
そうとは限らないんです。
-世界大会に出るための標準記録があるとか?
ないです。自分で、実力で世界選手権のシートをつかまなければいけないんです。
僕が世界選手権に出始めたのってなんでだと思います?
-全日本で優勝したからでしょうか?
優勝はしていましたが、ランキングは7位でした。
実は日本でも年に1度『日本グランプリ』というものがあって、世界選手権の全18戦のうちの1つが日本で行われているんです。その大会では『ワイルドカード枠』といって、開催される国の選手たちに出場する権利(枠)が与えられます。僕はそのワイルドカード枠をゲットし、当時鈴鹿で行われた日本グランプリに出て、そこで優勝しました。そうして自分の力をアピールし、世界大会に出場することができたのです。
-そうだったんですね。

食事管理で競技レベルアップを目指す

-上田さんは、『スポーツ時の食事』について自分が選手のときに意識はしてらっしゃいましたか?また今後についてはいかがですか。
自己流でスポーツトレーニングの本などを読んで勉強して実践していましたが、その道のプロフェッショナルである管理栄養士の方に指導してもらったことはなかったです。でも先日、こばたさんの講演会に参加させてもらい、そのおかげで自分の中での『食』に対する意識が高くなりました。
-そう言っていただけると嬉しいです。
現役の時は、レースがある朝は食事がのどを通らなくて、ゼリー状のものを食べたりしていました。でも、もっとしっかり食事を管理すれば、競技レベルもさらに上がったと思います。
-現在チームに所属する子ども達のレース日の食事はいかがですか?
屋外スポーツで寒さのせいもあり、カップラーメンを食べたりする選手がいます。あとお菓子、とくにスナック菓子を食べる選手もいますね。
でも先日、こばたさんが子どもたちに食事アドバイスをしてくださったので、今後は意識が変わると思います。
また私も、成長期の子ども達を指導している立場から、もっと積極的に食について勉強して、親御さん達にも啓蒙していきたいと思います。
-そういった指導者の方が増えてくださると私も嬉しいです。

▲スポーツ栄養セミナーの様子

『こだわりを持つこと』と『あきらめの悪さ』

-上田さんは世界で12年間も戦ってきましたが、世界で長年戦い続けられるというのはとてもスゴイことだと思うんです。その道を極めてきたからこそわかる大切なこと、教えてください。
やっぱり『こだわりを持つことだと』思います。アスリートとして本来あるべき姿というか、競技のために、時間も含めて、自分の全てをささげられるかどうか、ですね。自分の競技レベルに対してこだわって、現状に満足せずに常に上を目指すこと。そして『あきらめの悪さ』も大切です。それが必要なんじゃないかと思います。
-世界で戦い続けてきた上田さんの言葉だからこそ、説得力がありますね。では今後の夢はなんですか?
現役の頃は世界チャンピオンになりたくて、それだけのためにレースをしていました。でも引退して子どもたちを育てるようになってからは、自分のことではないので、具体的にはなくなりました。でもやっぱり子ども達の夢を、一緒に叶えていきたいと思います。子ども達の夢は、本当にまだ『夢物語』なので、夢が見えるとこまで早く引き上げてあげたいですね。
-やっぱり世界で戦ってもらいたいですか?
彼らはそれを望んでいるので、チームの中から世界グランプリでチャンピオンを取る人が出てきてくれれば、とも思います。それが具体的な夢かといったらピンと来ないですが、でも子ども達の夢だったら一緒に追いかけたいと思います。

▲上田氏と選手たち
-でも、自分がやるほうが楽ですよね。人を育てるのって、子育てと一緒で難しいですよね。
そうなんですよね(笑)。
-実は先ほど、子ども達に声をかけて「やめたいと思ったことない?」と聞いたら「ない」とハッキリ言ったんです。そして、続けている理由を尋ねたら、「すごく楽しいから」と。「楽しい」と返答するということは、そういう環境を上田さんが作ってらっしゃるんだと思うんです。
いやいや、私がいなければもっと楽しいんだと思いますよ(笑)。
でも私たちみたいな形でやっているチームは他にはないですね。レーシングチームで、子どもをお客さんとして走らせているところはありますが、うちはユースしかいないですし。
-上田さんは道がないところに道を作ろうとしていますので、険しい道、オフロードを走っているんだと思うんです。最初は道具も何も持っていないから手で掘って、そしたら石を見つけて、次は石でって・・・。だんだんやっているうちに賢くなっていくんです。そうしたら手を貸してくれる人が出てきたりして・・・。
そうですね。苦しいことは結構多いですけど、楽しいことが続いているからこのように出来ているんだと思います。
-これからも、子ども達の為、オートバイの未来の為に頑張ってください。私も応援しています。

編集後記

上田さんがライダーを目指したいとご両親に相談したところ、当時、お母様は猛反対だったそうです。その理由は、「オートバイ=暴走族」のイメージだったから…。しかし上田さんの熱意が伝わり、「数年で芽が出なければ、一切やめなさい」と一言だけ伝え、チャレンジさせてくださったそうです。
このお母様の言葉が、当時の上田さんの原動力になったのでは…と思いました。上田さんの周りには、お母様をはじめ数多くのサポーターがいらっしゃります。きっと、上田さんの情熱や、何事にも真摯に取組む姿勢が多くの方を惹きつけてこられたのだと思います。これからもお互い、周囲の方への感謝を忘れず、前に進んでいきましょう! 
こばたてるみ
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