対談/vol.13

しょくスポ対談

vol.13 三宅 郁美 さん

今回のゲストは、料理家 三宅 郁美 先生です。三宅先生は、フランスで料理やお菓子づくりを学んだ後、ニューヨークで料理教室を開講。現在は東京・目白で料理教室を主宰する傍ら、料理本の出版やカルチャースクールの講師など多岐に渡ってご活躍されています。また、三宅先生の魅力は“料理のスペシャリスト”であることはもちろんのこと、品の良さとセンスの良さ、さらに気さくなところもステキです。先生が作るお料理には、そのお人柄の良さが“旨味”となって出ていました。
今回はそんな三宅先生の料理家になるまでの過程や、“人との繋がり方のコツ”を伺いました。どうぞご覧下さい!

三宅 郁美(みやけ いくみ)


1985年から5年間、フランスに在住。「ル・コルドンブルー」「エコール・リッツ・エスコフィエ」にて、菓子・料理・ワイン・チーズ・ テーブルコーディネートを学び、ディプロムを取得。1990年より2年間在米。N.Y.マンハッタンK&Mカルチャースクールにて料理講師を務める。帰国後、東京・目白にて三宅郁美料理サロン「LE TABLIER BLANC(ル・タブリエ・ブラン)」主宰。
ル・タブリエ・ブラン HP

※プロフィールは対談公開時(20099月28日)の
  ものとなります。

好きなことを仕事にする

-現在、お仕事はどのようなことをされているのですか?
メインはお料理教室です。その他にカルチャースクールの講師や企業のセミナー、新聞・雑誌等へレシピ提供をしています。
-ご活躍されていますね!
あと最近多いのが、自分のレシピ本作りですね。
-素晴らしいですね。
  三宅先生はなぜ今のお仕事に就いたのですか?
27歳で結婚し、主人の仕事の関係でパリに5年間住みました。その後そのままニューヨーク転勤になったんですけど、当時はパリ勤務が終わったら日本に帰国すると思っていて、その時33歳だった私は子どもがいなく、「もしかしたらこのまま子どもが持てないかも」と思いました。実は私、独身時代の夢は『PTAと仲人』で。でも子供がいないとPTAはできないですし、仲人は今の時代ないし。であればこの夢は叶わない、と思った訳です。
-『PTAと仲人』ですか!?
そうなんです。本当なんですよ。でもそれが出来ないとなれば日本に帰国した後のことを考えた時に、家庭のことだけで1日過ごすというのは考えられなかったんです。主人も「何か仕事を持ったほうがいい」と言ってくれましたし。
-良いご主人ですね。
でも私は特殊な資格もないし、能力もない。何をやろうか正直悩みました。
-どのように探したんですか?
私にとっては次が2回目のお仕事になるので、嫌いなことではなく好きなことをやりたかったんです。一番興味があり続けられること、努力すればできることをやろうと。

▲教室

エコール・リッツ・エスコフィエ
証書
-それが今のようなお仕事だったんですね。
「一番好きなこと」と考えたときに、『食』だったんです。食べることが好きだったので。私、お料理教室にはずっと通っていたんです。日本でも外国でも。主人の知り合いのご夫婦に中国人の方がいて、その方に中国料理を習ったりもしましたし、パリでもフランス料理を習いました。
-様々なお料理を学ばれたんですね。
それで帰国があと1年以内になりそう、となった時、「食の仕事を日本でしたい」と思ったんです。でも「私は料理上手ですからいらしてください」だけでは仕事ができないと思ったんです。そこで、ちゃんと勉強した“証”があったほうが良いと思い、コルドンブルーやリッツといったが学校に行きました。これが私のターニングポイントですね。
-先のことを考えて行動されたんですね。
考えざるを得なかったんでしょうね。“証”はなくても良いと思いますが、自分はそれがないと動けなかったんです。自分を奮い立たせるというか。何かを始めるとき、“0”から“1歩”ってすごくパワーがいりますから。

“先生になるため”の練習


結局、パリから日本に帰国するはずが、そのままニューヨーク転勤になったんですけど、でもそれが運が良かったと思っています。
-どんな風にですか?
『ニューヨーク読売』という、主に日本人が読んでいる新聞があるんですけど、そこに勤めている友人がいて、ある時、地域広告スペースが空いてしまったらしく、その方が「広告載せてあげるよ」と声をかけて下さったんです。だから「お料理教えます」というような記事を載せて頂いたら、あっという間に100人集まりました。
-すばらしい!
あとは、ニューヨークにいた知り合いの方がお友達を集めて下さって、そこでもお料理教室を始められました。だから本当に運が良くて。それがなかったら今の私はなかったかもしれません。
-ニューヨークでのお仕事が、今の土台になっているんですね。
でも、思うのですが、料理教室を始めたばかりの時って“先生の練習”なんですよね。「先生」が「先生」になろうとがんばる時期。
-私もその通りだと思います。
最初の頃って、教えるほうも熟してないので下手なんですけど、だからこそ、その分一生懸命やりますよね。それは教わる側にとっても魅力だと思うんです。夢中でされている先生って魅力的ですし。「先生」と名がついてからのほうが、ぐっと伸びると思うんです。私にとってニューヨークはそういう時代でしたね。すごく楽しかった。
-今の生徒さんは、どのように集客されたのですか?
今の方は、ニューヨークから帰国された方や、そのお友達が多いです。主に口コミですね。
-ということは、皆さん通い始めて長いのですか?
長いです。12年以上の方が53人います。
-え!本当ですか?
ニューヨーク時代含め17年お教室をやっているんですけど、その中には15、6年の人もいますよ。生徒の半分弱が12年以上ですね。
-すごい!みなさん、きっと先生のファンなんですね。
ですから、体力的に辛いので辞めたいなと弱気な時もあるのですが、この方々とのご縁は大切なので自分の勝手では辞められない。お教室は月1回ですけど、皆さん楽しんで来て下さっていますし。きっと生活サイクルの一部になっていらっしゃるんだと思います。

新しいアイデアを生徒に

-お教室で教える内容はどんなものですか?
お教室では前菜・メイン・デザートという流れで3、4品程作るんですが、心がけていることは、飽きさせず、常に新しいアイデアを持って帰って頂きたいと思っています。
内容的にはまず、誰か来たらすぐ作れる料理が1品。ある程度難しいテクニックがあり、しっかり覚えて頂きたい料理が1品、それから食材として話題性があったり珍しいものが含まれている料理が1品。その3つを、毎回は難しいですけれど心がけています。
-珍しい食材というのは、例えばどのようなものですか?

▲教室
例えば数年前は出回ってなかったエリンギや、関東ではポピュラーでなかった水菜など、そのような食材を少し“走りの時期”に使用しています。パプリカやドライトマトも、まだあまりポピュラーでなかった時に使用しました。ただ珍しいものを使う最初の頃は「これはこう使いますが、なければこれを使えばいい」という提案もしています。
-そのようなアドバイスはうれしいですね。
  先生は縁や運もありますが、きちんと努力をしてこのお仕事を拡大されてらっしゃいますね。
…あまり努力と思わないタイプなのでわからないですが。でも体力的な努力はしているかもしれませんね(笑)。

手を抜き、家族を幸せにするコツ

-料理教室での指導などは、体力が必要になると思います。ご自身の食生活で配慮されていることはありますか?
そうですね、家庭では野菜は多く食べます。できれば無農薬や有機が良いですが、神経質なタイプではないです。あと、昔からお魚は大好きです。子供もいないのでお肉より圧倒的にお魚が多いですね。でもそれはお魚が好きだからであって、ストイックにはならないです。そうなるとストレスになるので。だから万遍なくですね。あとは料理の品数は多いと思います。高価なものでなくサッと作れるものが食卓に多く並びます。それは主にお野菜ですね。
-きっとテーブルの彩りもキレイなんでしょうね。
あと、うちの教室のレシピって6人分なんです。
-それは珍しいですね。
そうなんです。なぜかと言うと、6人分だと2人家族の方は3回食べられるし、パーティーにも使える。4人のご家族方は、お子さんいると6人分食べちゃう。我が家でも1回に6人分作るんです。それを3つに分けて、その日に食べる2人分。あと2人分は冷蔵。最後の2人分は冷凍。でも決して同じようには出さず、少しだけ手を加えます。食べる方が同じものを食べているとわからないように。   
-それは大切な心がけですよね。
1回に6人分作るとかなり時間を材料も省けるんです。たとえばハンバーグなら、2人分も6人分も道具の汚れ方は一緒なので、それを3つに分けたほうが楽なので。私はいかにサボろうかと心がけますね。
-でも、お仕事自体もお忙しいのに、品数多いお食事を毎晩作るって、そういう工夫をされないと大変ですよね。
そうですね。どんなにささやかなものでも、おうちでくつろいで食べるのって一番ごちそうじゃないですか。ですから家でのお食事っていうのは大事にします。
-ほとんど外食はされないですか?
よくします(笑)。それは、だから決して無理はしないんです。私が皆さんにお教えするとき、「面倒くさかったら、デパ地下の20時以降に割引になる鶏のから揚げでいいですよ」とか普通に言います。全部自分で作ることが絶対にいいとはあまり思わないんです。あるものを使っておいしく作ればいいと思うんです。

▲三宅先生のお料理
-私もそう思います。
ちょっとだけ手を抜いて家族を幸せにする。買ってきたハンバーグやから揚げをそのまま出すのは問題ですが、それに手間をかければそれでいいんだと思います。お料理の先生がこんなことをいうのは何ですが。でもそれがコツなんだと思います。
-多分そういうコツを教えてもらえると、作ってみようと思えるんですよね。

初出版の喜び

-先生にとって、今まで一番嬉しかったことや、思い出に残っているお仕事ってなんですか?
そうですね…こばた先生は、ご自分の本はございます?
出されたのは、お仕事なさって何年目ですか?
-はい。「受験食」という書籍なんですが、私は長年スポーツ栄養に携わっていて、そのスポーツ栄養のノウハウを「受験」というフィールドに置き換えて書きました。親として受験期に何か子供の手伝いをしてあげたい、という方のお手伝いができればと思ったんです。
何かの試合で勝つことを目指すとか、受験とか、子供が頑張っているときに親がしてあげることって「食」ですものね。すばらしいと思います。これ1冊目ですか?
-そうですね。 
出されたのは、お仕事なさって何年目ですか?
-昨年出したんですけど、この仕事を始めて18年ぐらいなので、17年目でしょうか。連載はずっとしているんですけど、単独の書籍の出版は初めてです。
私も同じです。15~16年全然出せませんでした。毎月新聞や雑誌には載せていただいているのに本は出せていなくて。だから、初めて本を出して頂けた時はとても嬉しかったです。

▲三宅先生著書「キッシュ&タルト」
-それはいつですか? 
2年前ですね。それからはお話を多く頂くようになったんです。この5月に出した「キッシュ&タルト」という本が3ヶ月で6刷終わったんですね。
-すごいですね!
ありがとうございます。でも、それはとても嬉しかったです。 あと、嬉しいことと言えば…お子さんに教えているときがすごく楽しく嬉しいですね。小学校入学前位から小学校低学年のお子さんを教えるんですけど、小学校1~2年生くらいまではみんな個性が違って面白いんです。クッキーの丸め方を教えても全員違いますし。自分のやりたいことが小さいながらにあるんですよね。料理手順も、こちらとしては最高の手順を教えているのに、違う手順でやってしまったり。でも出来たりするんです。「こんな風にもできるのね」と、5歳の子に教わったりしています。
-子どもは私たち大人が持っていない、あるいは忘れかけていた発想をたくさん持っていますよね。 
そう。全員個性があって、全員天使で悪魔で、全員すごい才能があるんです。

1段1段ていねいに

-先生が仕事を極められる、夢を達成してきてらっしゃるコツは何でしょうか?
去年よりも必ず1段ずつ上がることでしょうか。
-納得です。
他の方なら5段10段と飛び級していると思うんですけど、私は本当に1段ずつなんです。
-でも1段ずつでも上がり続けているってスゴイことです!
自分で思っているだけなんですけどね。でも私は飛び級はなかったんです。お教室に1人2人だけ、という時もあったし。朝、電話がなるとノイローゼになりそうな時もありました。準備して待っているのに、生徒さんが来ないんですよね。そんなところからコツコツと初めて、お教室が1つ2つと増えました。そして「レシピをどこかに掲載したい」と思っていたら載せられるようになり、「カルチャースクールでやりたい」と思っていたら実現し、本当に1段ずつ。だからちゃんと17年かかっているんです。
-でも1つずつ積み重ねている中で、ちゃんとやり遂げてきているから認めて下さる方がいらっしゃっていると思うんです。連載や書籍のお話はどちらから来るんですか?
ネットを見てお声をかけてくださったのが初めなんですが、あとは友人、本当に人に助けられています。主人も私も“人の輪”を作るのが好きなんです。例えば今日こばたさんと会うと、「こばたさんを次に誰に会わせよう」と考えちゃうんです。
-なるほど。
素敵な方とお会いすると、必ず主人や友人に会わせたいと思います。でもそれは何かを得たい為ではなく、「この二人を会わせると、きっと楽しくて幸せ」と思ってこれまで生きてきたんです。そうしたらそれが自分に返ってきた、それですね。あ、そうか、今話していて初めて自分がそうやってきたんだと気づきました。外国人のパーティーってそうなんですが、おもてなしをする上で美味しいご馳走はいらないんです。外国の方って、お料理が出来ない方でも必ずホームパーティーをしますし。買ってきたパテとかでも全然問題ないんです。要は『誰かと誰かを引き合わせるパーティー』。楽しくなる人たちを会わせるパーティーです。それは外国生活10年で一番学びました。
-やっぱりそうだったんですね。初めて三宅先生とお会いしたとき、人が寄ってくる雰囲気があったんです。
人間が好きなんです。1人でいるより大勢でいたいんです。
-私もすごく人に縁があり、自分の実力以上のことをやらせていただく機会も多かったんですけど、それって本当に恵まれていると思っています。機会を与えて下さった方に失礼にならないよう全力でお応えしていきたいですね。

いつか、映像付きの本を

-最後に、今後の夢はなんですか?
文字じゃなくてDVDといった、映像がついた本が出せたらと思います。料理を全然やったことがない人に教えても、少し通じない部分ってありますよね。だからそういう“おまけ”がついたような本が出せたらな、と。でもそうするとすごく値段が高くなってしまうんですって。今、本離れが進んでいますし、ネットでもレシピがたくさん出ているじゃないですか。だからお金を出して買って下さるだけでもありがたいのに、もっと高くなってしまったら…。だからまだまだ難しくて。、もっと高くなってしまったら…。だからまだまだ難しくて。
-でもそのようなご時世に、先生の本は3ヶ月で6刷。これって改めてすごいことですね!
嬉しいですよね。簡単なのが良かったみたいです。
-きっと先生、映像付きの本、出されると思います。
どうでしょう…。でも叶うといいですね。
-大丈夫です!きっと叶いますよ。本日はありがとうございました!

編集後記

初めて先生にお会いした時、とてもステキな雰囲気を感じました。お話してみると、やはりその直感は間違っていませんでした。とても優しく、しかし芯はしっかりと通っている。先生は私にとって、料理家としてはもちろん、「女性」としても憧れの存在です。先生のお教室に通われている生徒さんも、先生のお人柄に惹かれて何年も通われているのでしょうね。
これからも料理を通して、先生の魅力を発信していってください! 
こばたてるみ
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